人口学への招待
いよいよ人口減少時代に突入し、少子高齢社会が現実のものとなってきた。少子高齢化が社会に及ぼす影響には私も少なからず興味があるので、これまでも「少子社会日本」を始め、何冊かの本を読んできたが、それらはいずれも社会学や経済学の立場から少子高齢化の影響を考察したものだった。本書は、人口推計や社会状況と人口構造の関係などを扱う「人口学」の専門家である筆者による人口学の入門書である。
人口学という分野があること自体知らなかったが、統計資料を駆使した人口推計だけでも十分奥が深く、さらに人口推移や出生率の変化等の要因分析に至ってはいまだ解明されていない部分も多く、現在さらにさまざまな研究が進められていることがよくわかった。
合計特殊出生率の算出や期間出生率、コーホート出生率、調整合計特殊出生率といった概念、生命表や定常人口、人口モメンタムなど、人口学の基礎的知識について分かりやすく解説するとともに、「多産多死」から「少産少死」に至る人口転換の要因に関する理論「人口転換論」や「第2の人口転換論」、さらに5つの社会経済的理論の紹介や出生率、結婚行動の予測とその困難さなどが詳しく解説されている。終章は「人口減少社会は喜ばしいか」と題して、多くの社会経済学者の論に対して冷静な批評を行なっている。人口減少は(大きな負の人口モメンタムの下)もう既に引き止められない勢いで進行しており、人口崩壊すら絵空事でないというのが現実である。我々はこうした状況の中でどういう未来を描いていけるのか。10年、20年の未来はまだしも100年、200年の未来となると、正直、想像の埒外ということを思い知らされる。
- 人口学では、人口の年齢構造の変化は出生率の変化の影響が大きく、死亡率の変化によるところは小さいというのが定説である。(P27)
- 少子高齢化の最大の要因は出生率の低下である(P28)
- 現代の人びとは際限なく生きることができるものと錯覚しているようである。同じような錯覚が、日本人の間で人間の再生産、つまり自分と同じものを再生させる欲望を忘れさせ、少子化を推し進めているのかもしれない。(P123)
- 逆モメンタムの計算値は、日本人口の将来についていくつかの教訓を与えている。日本人口の将来推計の場合、人口減少がはじまった最初の10~20年間の減少は緩慢である。しかし次第に減少のペースが速まり、急速に減少していく。それは決して持続可能な状態ではなく、極言すれば一国の衰亡あるいは「人口崩壊」への道である。(P248)
- 合計特殊出生率が2.0に上昇したフランスは、1世紀にもわたり出生促進政策を国是として行なってきた。・・・昨日今日になって人口・家族政策をはじめたわけではないのである。(P258)
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