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2008年5月20日 (火)

地域は「自立」できるか

 「はじめに」の冒頭、「この半世紀の間に、地方圏での生活は中小都市についても農山村についても、所得水準と生活環境の両方で確実に向上してきた。都市と地方の間には、統計でみる所得格差はあるが、一人あたり地域所得でみると先進諸国の中では格差が最も小さい国に属するし、過去半世紀にわたって傾向的に縮小してきている。」という書き出しにぎょっとした。続いて「都市と地方の格差是正が、わが国の課題とされている。しかし改善しなければならないのは、・・・都市と地方の意識の断絶のように思う。」と書かれている。当然ながら、地域格差に係る最近の論調や実態に目をつぶろうとしているのではなく、逆にその真相を見極めようとする強い意思が『地域は「自立」できるか』という本書のタイトルにも表れている。しかも著者が描く地域自立に向けた処方箋は、経済学の基本をベースにしたものであり、経済学に門外漢な私には、経済学を基礎から学んでいる気がする。
 「プロローグ-都市と田舎の断絶」と名付けられた第1章では、現在の都市と地方の間で起こっていることを概観する。一言で言えばそれは「持ちつ、持たれず」の関係から「援助する側、される側」の関係になっている、ということだ。それはお互いにとって幸せなことではないし、日本全体にとっても「力強い将来はみえてこない」と指摘する。
 その上で、その後5つの章に分けて、地域の自立問題を検討していく。第2章の「地域格差は拡大しているか」では、経済成長と地域格差の実態を検証し、「地域内格差」こそ問題であることを指摘する。と同時に、上からの経済政策ではこの課題は解けないことを暗示して、第3章の「多様な自立の意味」につなぐ。「人口減少社会において、地域の活力と国の力を」維持・向上させるための軸となるのは「人の移動と交流が生みだすダイナミズム」であるとし、その前提となるのが「地域の自立」であると言う。この自立を以下、「ブロック圏の自立」と「地方中小都市・農山村の自立」に分けて、それぞれ続きの各章で詳細に検討する。
 「ブロック圏の自立」の重要な要件は「各圏域が地域自前の国際戦略をもち、日本や世界の各地域と東京経由でない独自のネットワークを構築すること」。「地方中小都市・農山村の自立」については「地域の住民が、自らより良い生き方ができるよう考え行動する姿勢をもち、参加して取り組むこと」が重要だと第3章の最後にまとめられている(P63)。
 第4章「ブロック圏の自立」は全総が経済発展に果たしてきた役割等を検証し、道州制等も視野にブロック圏の自立に向けた体制整備や取り組みの方向について述べている。個人的に興味があるのは第5章「地方中小都市・農山村の自立」である。この章は、全体としては「新たな公」への期待が述べられているが、2項、3項では「限界集落」「二地域居住」を取り上げ、考察を重ねている。基本的に限界集落切り捨てに批判的であり、第6章にもつながるが、都市側の地方観の反省を促している。
 第6章のタイトル「集約化で地方はどう変わるか」の「集約化」で指している施策は次の4つである。「生活支援機能の集約化」「居住地域の集約化」「行政機能の集約化」「働く場の集約化」。このうち「居住地域の集約化」については前章に続いて明確に反対をしているが、その他の集約化についてはある程度やむを得ないというスタンスである。これらの集約化を支えるのは「新しい公」であり、その背後にある「多様な住民の参加」が重要だというのが著者の主張だ。
 第7章「エピローグ」では、「経済は、どこの国でも不均衡に発展する」として、「効率」と「公平」をいかにコントロールするかが経済政策の基本である、と経済学の基本的認識を示している。経済学を学んだ人には当たり前のことかもしれないが、意外にこうした論説が目新しい。従来のような経済発展が見込めなくなった時代における公平性施策の実施が難しいことは理解できるが、やりきらねばならない。著者はそれを「多様性と連携」に求めようとしている。地方の真価が問われている。

●1950年代の高度成長期から70年代の安定成長期を通じて、大都市と地方は互いに「持ちつ、持たれず」の関係にあり、・・・それが日本の高度成長を支えてきた。しかし大都市と地方の蜜月時代は終わり、両者の間には「格差」という言葉だけでは表されない「意識の断絶」が感じられる。(P3)
●行政の存在理由は市場経済の欠陥を補完することだが、これまで政府と市場経済の圧倒的なパワーに押されて、地方自治体の力の弱さが目立っていた。地域の全体を鳥瞰し、将来を視野に入れてコーディネート機能を発揮するのは地方自治体の役割であり、地方自治体はそれに応えうるような人材を育成しなければならない。(P52)
●自然界については、希少種の保護が熱心に行われている。(それは)それが他の種にも及び、遂には人間にも及ぶといった生態系の連鎖があるからだろう。類似のことは、都市と農山村の関係についてもいえるのではなかろうか。(P119)
●市場の失敗を行政が補完することは必要だが、これは行政がすべての業務を直接に行わなければならないことを意味しない。・・・行政の責務は、行政が住民に提供することになっているサービスが確実に住民に提供されることを保証し、それを統括することであり、いわばコーディネーター機能を担うことである。(P149)
●経済政策で「効率」と「公平」は車の両輪だが、・・・「パイを大きくしてから、分配を考える」というのは厚生経済学の基本である。・・・経済は両者のバランスを意図的に崩しながら運営される。(P153)

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