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2008年8月 5日 (火)

福祉国家デンマークのまちづくり

 デンマークのまちづくりや社会制度が最近注目されだしたように思う。スウェーデンなどの北欧圏の中でも、さらに特徴的な社会体制が整備され、共同参加による民主主義により国民の幸福度の高い国家が実現しているという。昨年、デンマークへ留学した某先生の話では、公営住宅は「みんなの住宅」として整備され運営されているという。近いうちにデンマークの公営住宅制度についての詳しい話を伺う機会があるものと期待しているが、その予習の意味も兼ねて、本書を手に取った。
 著者は、西洋思想史を専門とする名古屋大学准教授の小池直人氏と都市計画が専門の熊本県立大学准教授の西英子氏。専門の違う二人の研究者がたまたまデンマークで出会い、お互いの研究を交換する中で、この魅力ある一冊の本が完成した。建築・都市計画分野から書かれる北欧の社会福祉・住宅問題・都市計画の専門書には、すばらしい社会制度についての紹介はあっても、その歴史的・思想的背景まではわからないことが多い。その部分を小池氏がデンマークの思想史等を解説することでカバーし、デンマークの魅力的で理想的な共同市民社会がいかに成立してきたかを明らかにする。
 デンマークのまちづくりの現場では、ガバメントとガバナンスが両立して「コ・ガバナンス(共治)」が実質化されておる。このための共同市民性に基づく社会関係資本が形成されている。それは、19世紀から続く協同的生活慣習の中で育まれ、両大戦による経済的・社会的(デンマークは一時ナチスドイツに占領されていた)苦境を市民共同性の中で乗り越え、現在の民主社会主義体制を実現してきている。
 新自由主義が蔓延し疲弊する各国を尻目に、1970年の自治体改革、2007年の再編を経て、デンマークはさらに変革を遂げようとしている。筆者たちの目は特に今回の再編がデンマークに及ぼす影響について、冷静で客観的な態度を守りつつ、その背景にある民主主義哲学に対して畏敬の念を崩していない。
 「みんなの住宅」と呼ばれる非営利セクターにより供給される「非営利住宅」を始めとする住宅政策やコペンハーゲン・コムーネ等で展開される地域再生事業など、具体的な社会制度の紹介もあり、多面的にデンマークの社会の実相と理論的背景が解説されている。なかなか興味深い本である。

●私たちは政治ということばでしばしば、(1)自由で平等な人間の結びつきというヨコの関係と、(2)支配と服従というタテの関係の二つの面を混乱しながら思い浮かべる。・・・前者の面を「ガバナンス(自主統治)」、後者を「ガバメント(政府統治)」と呼ぶことにしよう。(P20)
●「過剰に所有する者がほとんどおらず、過少に所有する者はなおさらいない。そのとき、私たちは豊かさを得ているのだ。」(P51)
●住宅は、たんに建てて住むハコモノではなく、よりよく住み、人と人とのつながりを維持する場、コミュニティへと質的変化を遂げていく。居住者は、たとえ借家であっても、一定の政治的役割をもって管理運営に参加し、居住環境の改善に取り組む共同市民であることには変わりがない。このデンマークのテナント・デモクラシーは、生活形式の民主主義のあり方を私たちに具体的に示している。(P87)
●私たちがデンマークに定着している民主主義を考察してみると、自由と平等の理念が結合しているだけでなく、もう一つの理念がそれらをしっかりと結びつけ、良好に機能させていることがわかる。それが私たちの主張してきた市民的つながりである。あるいは「共同」や「共生」といった概念で表現できる。(P167)
●デンマーク社会主義は1937年に、それらを国家レベルの綜合福祉法に統合し、たんに貧者、病者、困窮者などの社会の底辺層だけでなく、国民「みんな」を対象とする普遍的(ユニバーサル)な福祉制度として確立したのである。(P178)

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