オレンジの呪縛
●これはオランダのフットボールについて語った本だが、読み進めていくうちに、アート、建築、雌牛と運河、アナーキスト、教会画家、ユダヤ教、空港など、フットボールとは無関係に思われるものがたくさん出てくる・・・それはこの本が、オランダのフットボールではなく、オランダのフットボールに対する「考え」を述べるために書かれたからである。(P017)
序章冒頭の書き出しが、この本の内容と性格を十全に表されている。そしてこういう本を読むことが、サッカー本フリークの一番の楽しみだ。そしてもちろん、オランダ・サッカーへの愛情に溢れている。しかし実は、筆者のデヴィッド・ウィナーはイギリスのフリー・ジャーナリストにして、アーセナル・ファン。もっとも最近のアーセナル・サッカーとオランダ・サッカーの親和性は高いかもしれない。
オランダ・サッカーと言えば当然、70年代前半のトータル・フットボールとクライフを中心に展開する。しかしこの本では、それをただ礼賛するのではなく、トータル・フットボールが生まれた社会背景や歴史、文化、国民の気質を探り、関係性を追求する。特にオランダの構造主義建築やスキポール空港の空間構成、オランダの都市づくりなど、建築・都市計画に多く言及されるのも嬉しい。
そのために、歴代の選手、監督は言うに及ばず、哲学者、建築家、ランドスケープ・デザイナー、画家、バレーの振付師、歴史学者、パフォーマーなど、さまざまな人々に取材し、さまざまな声が紹介される。そしてそれらが見事に構成され提示される。
各章の章番号がまた面白い。ユニホームの背番号で表示され、最初は5、次いで7、もちろん14は欠かせない、10、2、11とその背番号を背負った選手に関係する内容が書かれる。そして最後は5/6。これは2000ユーロ・イタリア戦のPKの結果だ。それも外した割合。
示唆に満ち、ユーモアに溢れ、愛を感じる。今でもサッカー本最高の本は「サッカー狂い」と思っているが、それに匹敵する好著だと言える。
●「クライフには」とスミーツは続ける。「60年代の両面性、ベビーブーム世代の両面性を感じ取ることができる。権力の古い体質に反発する一方で、個人の利益というものに敏感だった。(P052)
●フットボールというものは、選手が本能に従って、心の底から楽しんでプレーするときが、最も美しくなるんだ。(P075)
●オランダ人は、空間をコントロールするプレースタイルを築いた。フェルメールの絵画では真珠が印象的な輝きを放つが、この画家の本質はその一転にあると言ってもいい。絵のすべては真珠の部分に集約されているし、フットボールのすべてはファン・バステンのオーバーヘッドキックによるゴールに集約されている。(P092)
●オランダのフットボールにおけるチームワークは、選手の平等性に基づいている。(P135)
●「ある日、ドクターが私のサインをくれと言ってきたから、私も代わりに彼のサインを求めたんだ。・・・私たちはファンを必要としていたし、ファンも私たちを必要としていた。お互いに支え合っていたのさ。」(P190)
●「オランダのフットボールの歴史は、『クライフ前』と『クライフ後』に時代分けすることができるだろう(P380)
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