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2008年11月18日 (火)

オーストラリアの公共住宅施策

 今年度、都市住宅学会中部支部の中に公共住宅部会が設置され、公営住宅を始めとする公共住宅制度の抱える課題や将来的なあり方等について検討を始めている。先週はオーストラリアのニューサウスウェールズ州における公営住宅施策について、話を伺った。報告いただいた椙山女学園大学の村上先生は、このところ毎年、シドニーに一定期間滞在し、さまざまな調査を重ねているそうで、その中の公営住宅施策編ということで「さわり」だけの報告だったため、現状や背景、州毎の違いや全国的な仕組みなど深いところまではわからなかったが、基本的な方向と概要はお伺いでき、彼我の違いを実感した。
 シドニー市(人口30万人)を含むニューサウスウェールズ州の基本的な公営住宅施策は、①直接供給を行うPublic Housing、②州が土地を所有し、運営は民間やNPOが行うCommunity Housing、③融資等の支援を得てNPO等が供給・管理を行うAffordable Housingの3種類がある。Public Housingは30年ほど前に自治体所有から州政府へ売却の動きがあり、1996年自由党政権下では公的住宅施策はあまり積極的に取り組まれてこなかったが、昨年の労働党政権以降、Affordable HousingとCommunity Housingの推進体制が強化されてきた。よって全体の戸数等は明らかでないが、Public Housingは州所有という形でまだ相当数存在し、最近になってAffordable HousingとCommunity Housingが数を伸ばしてきているという状況のようだ。(州全体では持家6割、民間借家2割、公的借家1割とのこと。)
 入居階層は、Public HousingとCommunity Housingが年収29,000ドルの第1区分、年収43,000ドルの第2区分を対象とし、Affordable Housingでは年収75,000ドルまでを対象としている(1ドル90円換算位が生活実感とのこと)。家賃は、規模や立地にかかわらず、年収に応じ、第1区分では所得の25%、第2区分では27.5%、第3区分では30%と決められている。ちなみに日本では概ね所得の1/6程度で設定されているはずで、年収240万円の世帯の家賃が年間60万円(月額5万円)というのは相当に高額という印象であり、その文化的、経済的背景等がわからないとなかなか理解しがたい。
 シドニーでは、調査当時(金融危機前)、住宅価格や家賃がいたく高騰しており(100m2で1億円のコンドミニアム等)、東京並みの状況だとのことであり、市民の理解は得られているのだろう。Public Housingは先着順で待機リストが数万人、入居できるまで2~3年はかかり、紹介された住宅の入居を拒否すると、リストの一番後ろに回されるとのことだった。
 施策の是非はさておき、公的な住宅セクターは直接供給から撤退し、民間やNPOに委ねていくという欧米と同様の方向付けがされている点が興味深い。前回の同部会では、公営住宅におけるコミュニティの崩壊がテーマとなり、福祉施策との連携の必要が話題となったが、民間・NPO主導の住宅供給を進めていくと、福祉施策はどういう形で関わっていくことになるのか。福祉施策は本来、居住形態に関わらず実施されるべきものであり、日本のシルバーハウジングプロジェクトや安心住空間創出プロジェクトのように公営住宅・公共住宅に限って取り組まれるというのは、モデル的な意味合いとは言え、ややおかしい。欧米の住宅供給の民間・NPO移行がこのあたりの問題をどう考えているのか確認をしていきたい。
 またAffordable Housingの推進にあたり、NPOへの出資や無利子融資等が行われ、家賃助成等はされていないようだが、入居管理の公平性や厳正化に対する公的関与の状況などもいろいろな背景がありそうで興味深い。日本の特定優良賃貸住宅の経験では、地方部において、入居審査が嫌われて民間普及が図られなかった前例があるが、なぜ欧米では普及していくのか(例えば審査がNPO任せで厳しくないとか)。経済的、社会的、文化的な背景をきちんと評価することが必要に思う。
 次回以降、デンマークやイギリスの公営住宅施策についてお聞きする予定としている。今後が楽しみである。

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