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2009年2月 3日 (火)

都市住宅学 第64号「200年住宅を考える」

 都市住宅学会の機関誌「都市住宅学64号2009冬」の特集は「200年住宅を考える」。やはり今、「200年住宅」は建築・住宅・都市分野の専門家にとって、気になるテーマの一つと言える。
 集められた論文は全部で10編。「そもそも住宅の長寿命化とはどういう取り組みか」と題する国土交通省住宅生産課による長期優良住宅の普及の促進に関する法律を始めとする関連施策の解説に始まり、日本大学経済学部の中川雅之氏による「200年住宅構想は何を目指すか?」、東京大学の野城智也氏による「住宅履歴書の制度設計について」、さらには不動産税制や住宅金融、住宅流通、また環境、森林・木材、都市工学、国土形成に至るまで、多方面から「200年住宅」を巡る考察と検討がなされている。
 これらを眺めて興味深いのは、住宅の耐用年数を現状から200年に伸ばすための技術的検討や視点からの論文がないことである。

 東京大学名誉教授の有馬孝禮氏による「200年住宅を森林・木材・木造から考える」では、建てた時のまま200年保たせるのではなく、更新・維持という視点から考察を進めている。その際、数年前に取り組まれたセンチュリーハウジングシステムを取り上げていることが興味深い。

●このセンチュリーハウジングシステムの設定耐用年数の持つ意味は「何年もつ」という耐久性を保証するのではなく、「何年もたすための仕組み(システム)を有している」ということを意味する。(P23)

 そして最後にはこう結んでいる。
●200年木造住宅にとって何より重要なことは平和である。200年平和の重みこそ重視したい。木造200年住宅が存在する時代こそ平和であることの証である。/大事なことは「百年」、「二百年」という数字でもなければ言葉でもない。それを可能とする空間的仕組みと時間・世代を超えた連携がどのようになされるかである。(P24)

 「平和」を出したら反則という意見もあるだろうが、東京大学の浅見泰司教授による「都市工学からみた『200年住宅』」でも、

●100~200年という長期で考えた場合には、人口が半減以下になる都市が多く発生することを鑑みると、現在の市街地圏域よりも狭い範囲でしか、200年住宅を供給することは適切でないことになる。(P41)

●都市的行政サービス圏域からはずれる地域においては、・・・むしろ部材を他の地域で有効に利用できるような配慮こそ求められる。(P42)

 という指摘がされており、住宅が本当に200年間保ってしまうとすると、社会的にどう受け入れるのかという射程の長い問題に目を向けざるを得ない。国土交通省は、都市計画や国土形成等も所管しているのも関わらず、この点についていかに無頓着であるかが問われる。

 千葉大学の小林秀樹教授は「共同住宅の長寿命化と不動産関連制度の変革」において、長寿命化建築の実現に関わる課題を、(1)スケルトンとインフィルの分離、(2)ライフサイクルコストの低減、(3)地域の持続性を高める仕組み、の3つにまとめている。3番目はまさに前2者の論文に通じる課題である。その上で、「スケルトンとインフィルの分離」に応えた建築基準法の見直しと、「ライフサイクルコストの低減」等に応えた金融と税制の見直しを提言している。「そもそも不動産だけが『資産税』をかけられる仕組みに無理がある」という前置きをした上で、「不動産利用に伴う公的サービス利用の対価として税を位置づけるほうが適切である」として、以下のように提案する。

●サービスの対価として位置づけるならば、建物の築年数とは無関係になる。ではどうするか。一つは、建物課税を廃止し、土地課税に一本化することだ。・・・もう一つは、建物については、築年数や構造種別に関係なく、床面積によって一律に税金を定めることである。(P20)

 実に合理的であり、単に200年住宅のための制度というだけでなく、快適で環境にやさしい都市づくりや税負担の公平性の観点からも一考に値する提案だと思う。

 熱が入って面白いのが、移住・住みかえ支援機構代表理事・立命館大学教授の大垣尚司氏の「2つの長寿命化と住宅金融」である。2つの長寿命化とは、「人間の長寿命化」と「住宅の長寿命化」を言う。この2つの長寿命化のミスマッチが起きているという視点から、住みかえの必要性とそのための金融制度と政策支援の必要性を説いている。「住宅家賃を金融資産として認めるべき」というのがその要諦であるが、既に「住みかえフラット35」などの具体的な金融商品も出ているようであり、今後の発展に注目される。

 実は、この特集でもっとも興味深かったのは、リクルート住宅総研の島原万丈氏による「既存住宅流通の本当の阻害要因と活性化策」である。日本人の新築志向の実態は、(1)潔癖性や美観、(2)見た目から感じる性能への不安、(3)リフォームに関する知識不足、であると指摘し、そのためには、「建設・リフォーム業と宅建業の垣根を取り払い、流通+リノベーションという住宅の取得方法の認知度を高めていく」ことが必要と提言する。

●「200年住宅」がいくら高耐久で可変性の高い建物で、新築時からの履歴情報が残っていても、他人の痕跡を嫌い、現代的な設備や美観にこだわって新築住宅を選好する層は、見た目が悪い既存住宅を選ぶことはないだろう。・・・既存住宅を流通時点で買い手のコスト負担でリノベーションするという手法は、市場システムの大がかりな改造を必要とせず、「200年住宅」以外の既存住宅の寿命も延長することができる。(P34)

●「200年住宅」が長寿命を理由に各種の優遇を受けられるなら、リノベーションによって再生した既存住宅は、あらゆる恩恵が「200年住宅」と同等に扱われるべきである。(P34)

 通して読んでみて感じることは、「200年住宅」という発想は、新築住宅だけしか見えていない安易で視野の狭いものだということだ。本気でやるなら、「既存住宅をいかに長寿命化するか」こそが中心的に据えられるべきであり、そのための税制や都市計画等も含めた制度構築が求められるだろう。
 今は経済対策の一環として、長期優良住宅制度に注目が集まっていると言う。経済対策であれば何も「200年住宅」などと限定する必要もない。わざわざ差別化を図るのは、その結果、優遇されることが見込まれる住宅メーカーへの支援策だからという穿った見方もしてみたくなる。しかしそれではますます住宅産業内の格差化と貧困化が進むのではないか。
 各論文はどれも「200年住宅」という発想そのものには好意的な論調である。必要なのは、これらの英知に真摯に応えていくことではないだろうか。

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