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2010年2月 5日 (金)

オランダの持続可能な国土・都市づくり

 オランダの国土づくり・都市づくり、そして同時に行われる住宅政策を、オランダの干拓の歴史から遡って、20世紀オランダモデルの達成、さらにグローバル経済下の21世紀における新たなモデルの模索に至るまで、総括的に論じた書籍である。難しく、かつ広範なテーマながら、全11章を各章20ページ程度に小気味よく分節して記述されており、読みやすくよく理解できる。
 1・2章は国土づくりの歴史である。干拓・治水の方法から都市のタイポロジー、そして干拓と治水で培われた文化遺産としての「計画と合意を重んじる精神風土」と「空間形成をコントロールする制度」を説明する。後者はプランニング技術と土地公有、統合的アプローチとネットワーク思想である。
 以下は、具体事例の検証と一般的制度の説明というセットで、都市成長管理、住宅政策、環境再生計画が説明されている。最初の都市成長管理については、3章でアムステルダムの都市拡張計画が、都市の成立した13世紀に遡り、時代区分別に都市拡張と計画管理手法について解説する。19世紀までの原初的成長期から始まり、1920年までの系統的成長期、1950年までに集中的成長期、戦後のニュータウン政策に代表される計画的分散期、そして最近のコンパクトシティ期である。
 4章は、アムステルダム、ライデン、ハーグ、ロッテルダム、ユトレヒト等で構成される多心型環状都市「ラントスタット」に見る成長管理の事例である。中央にグリーンハートと呼ばれる緑地を抱え、28~75万人都市が機能分担しつつ連携するオランダ独自の都市構造をつくりだしたラントスタット・ドクトリンが説明されている。
 これらを踏まえて、5章ではオランダの都市空間制度についてその特徴が解説されている。EUから始まり、国、州、地方自治体まで、それぞれが計画をつくり、それぞれの責務や政策の中で協議が重ねられる。分権国家オランダでは自治体が土地利用に関しては最も規制的でかつ権力を持っている。その時に起動するのが、オランダ独自の調整システム、協議型プランニング・システムである。これは、「垂直調整」と「水平調整」から成り、各セクター、各政策のマトリックスの中で同時並行的に協議・調整が図られていく。
 この干拓に由来する合理的・分権的協議の場では、次の3つの計画理念が共有されている。一つは「ルール&オーダー」(規則と秩序)であり、2つ目に計画理念を共有するための「プランニング・ドクトリン」であり、どのようにプランニングを進めるかという「戦略的プランニング」である。
 本章の最後では、日本で通常行われる「プロジェクト・プラン」と「テクノクラート型プランニング」と比較して、「戦略プラン」「ソシオクラート型プランニング」の優位性が解説されている。
 6章は住宅政策の解説であり、7章で問題団地と言われた大規模高層住宅団地ベイルマミーアの再生事例を紹介する。オランダの住宅政策は社会住宅を中心に一時はそのストックが全住宅の42%、賃貸住宅の80%近くを占めるまでになった。政府は社会住宅建設に財政支援を行うとともに、公共・民間を含めた賃貸住宅居住者に対して家賃補助を行ってきたのである。しかし、増大する住宅支出と「2つのミスマッチ」と言われる、高額所得者の低家賃住宅入居と低額所得者の高家賃住宅入居(家賃補助される)の問題が顕在化し、抜本的な見直しが迫られるようになってきた。21世紀以降の住宅政策の変革については、11章で詳述されている。7章は、大規模団地再生にオランダ独自の計画手法がいかに活かされたかという事例である。
 8章、9章は自然環境再生計画に関する制度体系と、ヘルダースバレ地域における再生事例の報告である。ここでもオランダ独自の計画手法が十全に活かされている。農業と自然環境が対立するステークホルダーとして同じテーブルの上で協議を重ね、ウィン・ウィンの関係を作り上げていく報告は刺激的でもある。
 10章では、20世紀までのオランダモデルを支えたものとしての政策3要素、プランニング・ドクトリン(イデー)、公共介入(ツール)、ガバナンス(パワー)を、3章から9章までの事例や政策別にマトリックスで整理し、その効果を論じる。しかし時代は次第にその政策に路線変更を迫ってきた。
 最後の11章は「21世紀型オランダモデルの模索」である。ここではまだ変化しつつある政策の現状を述べるまでに留まっているが、関係者に対するインタビューなどにより、肯定的・否定的、両者の意見を収め、今後の評価に向けた視座が据えられている。
 全体的に非常に論理的でわかりやすい。かつオランダ都市計画・住宅政策・自然環境計画の到達点とその魅力がよく伝わってくる。多くの教訓と示唆に富む内容だが、日本が直接取り入れるには背景も歴史も違いすぎる。だが、こうした達成点とさらに続けられている不断の努力を見ることは大いに励まされることでもある。よい本である。

●都市機能の分散は都市間の孤立を招きがちで機能面で効率的とはいえない面もある。そこで都市機能を統合する複合都市圏の考え方が取り入れられるようになった。すなわち主要4都市に異なる機能を分担させ、それぞれをネットワークで繋いで、全体として都市圏全体に相乗効果を発揮させようとする考え方である。つまり分散させながらネットワークで結び、結果として都市圏全体の機能強化を図るのである。(P35)
●オランダが「統一分権国家」といわれる意味するところは、「統一国家ではあるが分権を旨とする国家」なのである。(P102)
●オランダは過去1世紀半にわたって住宅問題について真摯な取り組みを行い、今日では世界的に注目されるアフォーダブルな住宅建設の王国を築いてきた。・・・それを支えたのは・・・都市計画の中に住宅地計画をきっちりと組み入れるという、オランダ独特のプランニング思想である。・・・このようにして蓄積されてきたオランダ住宅政策の伝統が、1980年代以降、世界的潮流となった新自由主義の流れの中で見直しを余儀なくされ、その中心的役割を担ってきた住宅協会が民営化されることになった。(P138)
●解決すべき課題は”農業と自然・環境との矛盾”(農業vs自然・環境)の解決にある(P207)
●日本の場合は、プランニング・ドクトリンは、経済施策や景気振興を優先させる”理念なき”実務主義である。公共介入は最近の規制緩和や民間活力の活用に見られるように減退しつづけ、都市空間のカオスを招いている。ガバナンスにおいては、住民参加を形骸化したトップダウン方式が幅を効かせている。(P231)

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