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2010年4月

2010年4月28日 (水)

ニュータウン再生

 筆者は大阪の都市計画系研究機関において長年にわたり千里ニュータウンの変遷を見守り研究を続け、退職を機に大阪大学大学院に入学。本書はそこで提出した博士論文をベースに記述されたものである。現在、NPO法人「千里・住まいの学校」の代表理事を務めるなど、引き続き千里ニュータウンに関わり続ける千里ニュータウンのエキスパートである。

 博士論文らしくきちっとした構成と調査をベースにした厳密な筆致で書き進められている。同じ事象を右から左から前から後ろからと繰り返して記述されていることも多く、読み物としてはややうるさい感もあるが、専門書としてはしっかりしている。

 筆者の関心は「住環境マネジメント」である。これを流行りのNPO活動や市民活動だけに着目するのではなく、第1部ではこれまでの住環境保全活動を振り返り、第2部では行政の取組をまとめた上で、第3部で「新しい公」による住環境マネジメントとして新しい動きや今後の方向性をまとめている。第3部については今の時代、ある意味当たり前であり、また千里ニュータウン独自の歴史や環境が影響することではあるが、第1部・第2部をきちんとまとめている点が好感を持てる。

 住民による住環境保全活動が当初は環境保全のための反対運動が主であったものが、次第に高齢化等に伴いより使いやすい環境への変更や創造を促すものに変化していき、またその過程で住民相互の意見対立も生まれている状況が興味深い。

 また行政の関わりも変化している。当初、大阪府が設立した千里センターは廃止され、地元市、公的住宅管理者(府・UR・公社)、市民・住民等が主体にならざるをえなくなってくる。ニュータウンと言えども市の一部として扱うべきだという地元市の意向が次第にニュータウンの問題に直面せざるを得なくなってくる状況も興味深い。ただしその必然性が本書で明確にされ、私自身が納得できた、というところまでは至っていない。

 私自身、高蔵寺ニュータウンに居住し、様々な立場でまちづくりの場に立ち会うこともあるが、未だ明確な役割分担の結論に至らない。千里ニュータウンでは民間分譲住宅の建替がまず進行し、その後公的賃貸の建替が話題になり始めている状況のようである。高蔵寺ニュータウンに限らず名古屋圏ではまだ民間マンションの建替は大きな流れにはなっておらず、一方で公営住宅を中心に中層住棟の建替が一足先に進められているというのが現状ではないか。もちろん高蔵寺ニュータウンにおいては、社宅の取壊し・売却と民間マンションの建設が一時広く進められたが、景気低迷とともに停滞している状況である。

 ニュータウンの再生と経済動向は密接な関係があり、物的状況や入居者の状況に応じて、経済動向を踏まえた更新や再生が進められる必要がある。そういう意味では千里ニュータウンの状況は先進的な事例にはなっても、それを真似ればいいというものではないのは明らかだ。千里の状況を参考にしつつ、個別のニュータウンでは団地ごとの、時代ごとの状況を踏まえた再生の道を探していく必要がある。そのためにも十分参考になる本であった。

●年数が減るごとに住民の要求が受容されにくくなっているのは、当初の計画における理念や内容が住民の意識から薄れることや、80年代に始まるいわゆるバブル経済への移行に伴って開発・建設のポテンシャルが高くなり、これが住民の意識や要求を凌駕したためと推測される。(P37)

●千里ニュータウンにおける住環境上の問題は、これまで住宅や施設の建設や再整備を「する」ことに起因したが、高齢化の進展に伴う問題は、居住者が住み続けや住み替えが「できない」ことに起因する新しいタイプのものである。(P75)

●千里ニュータウンは「変化しない骨格」と「変化に対応できる宅地」を備え、将来に向けた都市の「持続性」に対して「柔軟性」を備えた街であったとも言える。(P142)

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2010年4月26日 (月)

マンションの課題

 都市住宅学会中部支部講演会は、「ストック活用社会における住まいづくりを考える」と題して、京都大学名誉教授・三村浩史先生が話される予定であった。が、講演会前日、急遽、先生が来名できなくなり、地元の3先生によるマンション問題に関する研究発表会に差し替えられた。

 とは言っても、三村先生からは講演レジュメと関連資料が届いており、電話でレクチャーを受けたという海道先生からの説明が先生方の研究発表に先立って行われた。

 フローからストックへ、建設の時代から保全・改修の時代へ、というフレーズは既に言われ出して久しい。三村先生も関わった「京都市住宅マスタープラン」でも「住み継ぐ」という言葉がキーワードの一つに掲げられ、「京都らしい住まい方を未来に継承する仕組みづくり」を進めることとされている。()京都市景観・まちづくりセンターのニュースレター「まち工房」や京町家を保全・活用するための様々な取組の紹介も興味深いが、「景観条例の制定により多くの既存不適格建築物が生まれ、このため事業者の間にも建て替えずに利用し続けるストック活用のマインドが発生してきた」という話は非常に興味深い。そしてこの話題は、マンションの課題にもつながっていく。

 地元3先生からの報告は、前週に行われたマンション学会でのテーマの再報告である。名城大学の海道先生からは「持続可能な都市とマンションの課題」と題して、持続可能な都市・デザインの潮流について簡単に紹介があった後、名古屋市の「低炭素都市2050なごや戦略」に即して「駅そば生活圏」の構想が紹介された。

 名古屋市では駅から800m圏人口比率を現行の63%から2050年には75%に高めることが目標として掲げられている。これは人口減少を考慮すると、実質、「駅そば」人口は維持し周辺人口を30%減少させることを意味する。会場からは「なぜ800mなのか」という質問もあった。徒歩10分、1/2マイルということだが、統計資料が得やすい1000mではないことに特段の意味はないようだ。

 「駅そば」構想を進めるには当然、マンションが注目される。マンション居住者の高齢化の状況(2008年度時点で全国のマンション世帯主の4割が60歳以上)や永住意識の高まりなどを事例に、マンションの3大課題として、(1)維持管理や修繕・建替等のマンション自体の課題から、(2)景観・環境といった周辺コミュニティの課題、(3)住み替え等の都市・地域との関係へと広がっていることを指摘し、次の6つの具体的な課題について説明された。

 一つは「都市構造変化の中でのマンションの役割」であり、二つ目に「巨大マンションと区分所有制度」の問題である。その上で「都市再生と持続可能な住宅再生」、「所有か賃貸か」「近隣コミュニティとマンションコミュニティ」「住宅と世帯構成・ワークライフスタイルのミスマッチ」を指摘された。中でも「所有か賃貸か」で示された「所有権と利用権の分離」については、会場からの質問もあったが、マンションの再生を考える上で、現状の区分所有制度の機能不全が懸念されるだけに、議論のいっそうの進展が望まれる。

 ちなみに「所有権と利用権の分離」について簡単に解説すると、従来の区分所有制度では居住者が所有者となり住宅を共同所有するのに対して、所有を居住者等が出資する特別目的会社や組合等が所有し、居住者は所有者から利用権を取得する方式のことを言う。こうすることで管理等の円滑化と所有・利用概念の明確化を図ろうとするものであると思われる。

 2番手は中部大学の松山先生である。先生からは名古屋市内のマンションストックの状況を概観し、着工年度の波、事業主体別の状況(70年代前半まで公的事業主体が主導し郊外大規模団地が多く、その後民間分譲に移っていった)等を説明した後、特に6070年代マンションに絞って平面図等も交え、具体的に事例紹介をされた。

 名古屋市内の民間マンションは首都圏等と比較し、約10年遅れて建設が始まっている。地元ディベロッパー等による小規模なものが多い一方で、床面積300m2といった豪華マンションも建設されている。

 中でも先生が指摘されたのは、名古屋市の都市計画の変更や高度地区の指定に伴う既存不適格マンションの問題である。ただし、名古屋市の都市計画決定においては、それなりに既存建築物に配慮しており、用途や高度の問題よりも日影規制が問題になるとのこと。ちなみに名古屋市の高度地区は、マンションについては建替時に1回に限り従前高さまでを許可するよう運用する意向だそうだ。

 もう一つ指摘されたのは、マンションの事務所等用途への所有者の変更の問題で、特に都心部ではひどい状況であることが紹介されたが、この問題も含めて、所有権と利用権の課題は早急な検討が期待される。

 最後に登場したのは、名城大学の高井先生である。先生からは大きく2つのテーマ、芦屋浜シーサイドタウンの経年研究を素材にした大規模団地の共用部の利用と改善・活用の課題と、いくつかの分譲マンションにおける共用空間・施設の利用の変遷の課題である。

 前者では、芦屋浜の特徴である空中公園が利用されなくなっていること、広場の利用者が変化していること、スキップフロアに対する評価の逆転(好評価から悪評価へ)などが紹介された。また、公営住宅・公団住宅・公社住宅・民間分譲住宅と多数の事業者が関わって、全事業者による共用空間が存在することが今後の再生活用を図る上で最大のネックになるだろうという指摘があった。

 後者では、分譲マンションに設けられたキッズルームやスポーツ施設、OAルーム、CATVスタジオなどが自転車置場や集会所、トランクルームなどに変更されていることを紹介。

 両者を通じ、経年変化にいかに対応するか。経年変化を視野に入れたハード整備やソフトな仕組みづくりを提言された。特にソフト面の整備、施設改善と再生利用を図るための意思決定の仕組みの重要性については強く共感するところである。

 全体を通して、既存の住宅ストック、特にマンションを再生し活用していくことがテーマとなった。京都市の住宅マスタープランでも「住み継ぐ」がテーマとなっており、既存不適格問題の前でストック活用が現実的な課題として浮かび上がりつつあることを痛感した。今後、国も住生活基本方針の改訂が検討され、また全国の自治体でも住生活基本計画の改正作業が進められようとしているが、セーフティネット問題と並んで、今まで以上にストック活用・マンション問題は重要なテーマとなってくるだろう。そんな方向を示唆する講演会であり、有意義であった。

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