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2010年5月13日 (木)

安全な建物とは何か

 「知りたいサイエンスシリーズ」のうち、「食品汚染はなにが危ないのか」「化学物質はなぜ嫌われるのか」など社会に関わる問題を取り上げた中の1冊。一般向けにやさしく耐震設計の実際について解説しつつ、建物の安全性とは何か、法律の役割と基準・規準の役割、社会として建物の安全性をどう確保していくのかといった建築基準の意味とあり方について深く考察し、提言をしている。しかもこうした専門的な課題にも関わらず、最後まで平易な文章を保ち、記述されている点は尊敬に値する。
 私自身も新耐震設計法程度までは知っているつもりだが、最近の限界耐力計算については、考え方はある程度推察するものの十分理解しているとは到底言い難い。ましてや原子力発電所の耐震設計基準に至ってはほとんど知らなかった。また、地盤と建物の相互作用により減衰定数が増大することによる振動抑制効果については初めて聞く話だった。
 こうした具体の耐震設計法等を解説する前半に続いて、後半は安全性をどう測るのか、誰がどうやって保障するのかというテーマに移っていく。そこで活躍するのが信頼性指標等の確率的な考え方だ。その上で、法律とは何か、基準・規準・指針とどう違うのか、という問いを投げかけ、誰が安全性を保障するのかという制度設計の話題になっていく。
 最終章で筆者が提案するのは「社会的合意に基づく耐震性」=「耐震安全性の事前協議制」である。建物の安全性は、国や自治体、または専門家に丸投げして決めればいいものではない。建築主の責任ある意思決定が重要であり、場合によっては地域も含めた、関係者による双方向型で協議型のリスクコミュニケーションにより安全性の水準を決めていくことを提案している。地震等の危険が確率的に把握でき、被災時の想定損失費用が信頼性指標との相関から荷重係数(安全性の水準)を設定できるようになってきた現在、耐震設計や建築基準の考え方を根本的に転換していく必要があるという主張だ。
 建築基準法がますます混乱し錯綜して合理性を失いつつある中で、建築基準法を一から見直し、場合によっては廃止した上での「建築基本法」の提案は一考に値する。一般人だけでなく専門家こそが真剣に受け止める必要がある事柄であり、読むべき本だと思う。

●マンションの場合の全体の被害を100としたとき、関係者間の被害の責任比率を、私なりに評価するとこうなります。/まずは事業主が70、残りの30を居住者、確認機関、金融機関が負います。そして事業者の70の被害分を、まずは契約内容や業務実態に応じて、事業者が施工者と設計者に損害賠償をします。設計者は構造設計者に対し、契約内容や業務実態に応じて損害請求をするという構図だと思います。(P59)
●学会規準や民間規準であれば強制されるものではないのですが、法規制となると、それ以外が許されなくなるので、専門家の間で十分な合意がとれた範囲で、最低限の記述にとどめておく必要があると思います。1981年の新耐震の多少強引な導入が、法による強制的な技術の進展という形を生みました。その実績が2000年、2006年の改正を拙速なものにしてしまった感があり、法規定の行き過ぎを批判する声は少なくありません。(P172)
●海外では確認制度ではなく許可制度になっています。・・・その場合でも、建築することに対しての許可はするけれど、その建物がどのような性能をもつかについての責任は負わないことを明言しています。(P182)
●安全に対する責任という言い方は、安全をどのように考えるかにかかってきます。もし、地震に対して絶対に壊れないものを安全というのであれば、そのようなものは存在しないのだから、責任はとれないことになります。では、法律を満足するものを安全というのなら、法律は最低の基準でしかないのだから、壊れることは想定済みなはずです。・・・今の社会制度では、このあたりがきわめてあいまいになっています。安易に安全と言ってはいけないのに、建築基準法の第20条の中に「政令で定める構造計算で確かめられたものを安全とみなす」と書かれてあることが、とても気になります。(P183)
●確認制度はあっても安全そのものは保障しないと明言することが大切です。できないことはできないと明言し、国民一人ひとりが、安全性についてしっかり考えることができる情報を提供することが大切です。(P193)

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