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2010年12月

2010年12月21日 (火)

人口減少時代における土地利用計画

 序章、終章を除き、全部で25編の論文が収録されている。執筆者は共著者も含めて21名。そのうちの一人から格安で譲っていただいた。が、B5サイズ2段組に細かい活字でびっしりと専門的内容が詰まった本を読み進めていくのはしんどい。長い間机の上に放ってあり、ようやく意を決して表紙を開け、何度も中断し、多くは読み飛ばしつつ、ようやく最後のページにまで至った。よって、興味のない章は目を通しただけでほとんど頭に残っていない。いやほとんどのページかもしれない。

 全体は3部構成になっている。「持続可能な都市の形態と周辺部の課題」と題する第1部(全10章)では、コンパクトシティの理念や景観計画、郊外住宅地や農地の保存・利活用・管理の問題など、網羅的な視点から都市周辺部の課題が述べられている。

 続く第2部は「都市周辺部の土地利用計画制度の現状と課題」と題し、適宜、具体的な地区事例も踏まえつつ、都市計画区域外や市街化調整区域等における土地利用規制と誘導方策について分析がされている。

 第3部は具体的な事例紹介である。コンパクトシティ政策で名高い青森市、富山市を筆頭に、札幌、兵庫県、金沢、四日市など全部で8地域の土地利用コントロールの施策と実施状況等が、一部、自治体担当職員によるものも含めて紹介されている。

 「おわりに」に「規制緩和を薦める事例集ではないのか、と印象をもたれたかもしれない」と書かれている。必ずしもそうは思わないが、一方で札幌市の星氏が書く以下の文章も記憶に残る。

●人口減少期における「都市の縮退」がしばしば話題になるが、それが市街地の縮小あるいは非市街化を意図する概念であるとするなら、都市計画行政においては、およそ現実的ではないし目指すべきものでもない。そこで生活する市民がいる以上、住み続けられるよう生活の不便を少しでも軽減することに行政と市民が共に知恵を絞ることが重要であると考える。(P143)

 すなわち、本書は我が国の欧米諸国に比べ著しく緩い土地利用法制を前に、依然進む都市の拡散圧力と理想的な都市構造の狭間で何とか最善の土地利用実態を実現しようとする呻吟の書物である。実際にその現場で悩んでいる行政職員が多くいるはずで、本書はそうした職員に向けた応援ときっかけを提供する参考書でもある。

 「都市周辺部の持続可能性」というテーマは難しい。星氏が言うように、都市周辺部に生活し、また利害関係を持つ立場からすれば、総論や現実は理解しても、個人的に理解することは難しい。押しつけるべきものでもないし、個人的利害の主張を総論で抑え込むべきでもない。全員が納得できる解決が求められる。

 本書がそれに向けてどれだけ前進しているかは定かでない。しかし課題を明らかにすることには意味があるだろう。第3部は、それに向けた模索の数々だが、これが決定打というものはない。大きな社会変化の中で、土地利用計画制度自体も大きく揺さぶられる可能性もある。現状の変化と試みと結果を冷静に認め検証していくことしかないのだろう。貴重な研究が集められた論文集である。

●地域環境の利用管理を含む計画は地区単位で、住民の参加を得て策定されなければならない。神戸市条例や伊賀町条例では、このような住民合意の計画を前提に、行政は住民や土地所有者に計画に適合する土地の利用と管理を求め、さらに計画を実現するための事業への協力を要請する仕組みが盛り込まれている。(P58)

●「定住性」を高める取り組みにより持続可能となり得る郊外住宅地は大量に存在すると考えられる。しかし、財政支出を伴う行政支援については、選択と集中の観点から、取り組みの実効性が見込まれる住宅地から優先的に実施することが必要となろう。その場合の「実効性」は、持続可能な住宅地という共通の目標に向け、地域住民が一体となって「定住性」を高めていこうという意識が共有化されているコミュニティであるかどうかにかかっている。(P61)

●つくば市では都市計画マスタープランの策定を終えようとする200410月から開発許可条例の制定など、地域に応じた立地基準を定める調査検討が始まった。・・・そして・・・、各エリアのそれぞれの将来像に応じて、地方自治体が、許可しうる開発行為の内容を定めた立地基準(都市計画法第34条)を、(a)開発許可条例に制定する、(b)地区計画を都市計画決定する、あるいは(c)開発審査会に付議する基準に設定する、といったように分類した。その上で、・・・立地基準の具体詳細を決めていった。(P85)

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2010年12月16日 (木)

「大学町」出現

 本書を読もうと思った動機は、筆者が名古屋大学出身だったから。最近、名古屋大学及び関係者と関わることが多くなった。キャンパスにも行くことが増えた。これまではただ通り過ぎるだけの場所だったが、最近は鏡が池を眺め、起伏のある地形を歩き、周辺の高級住宅地や市街地を通ることが多くなった。地下鉄開通とともに豊田講堂や古川記念館が再生され、IB電子情報館や環境総合館が整備され、現在は建築系校舎の建替が進められている。本書では、名古屋大学も含め、戦前、郊外に整備・開発された関東・関西の主な大学の開発の経緯を振り返り、大学と市街地整備の関係を分析したものである。

 取り上げた大学と市街地は、一橋大学と国立、関西大学と千里山、関西学院・神戸女学院と阪急沿線、東京工業大学と大岡山、慶應義塾大学と日吉台、名古屋大学、大阪市立大学などである(大学名は現在)。

 東京では関東大震災後という特殊な状況の中で、私鉄敷設とともに民間の力に負った開発が行われた。そこには不利な地形も利用可能という大学キャンパスの特徴が民間事業者に利用された形跡が窺われる。また関西では、小林一三の多角的な私鉄経営の一環として、ミッション系のブランド・イメージや独特の建物景観が活用されている。

 大阪市立大学は、関一の大阪市都市計画に基づく計画的な緑地創出の一環として開発されたが、用地取得の難航の中で、都市計画の当初の意図は大幅に後退せざるを得なかった。一方、名古屋大学では、名古屋初の総合大学として、官主導により、土地区画整理事業を利用したキャンパス整備が行われた。

 終章で、「計画の一貫性と事業の実現性・・・の相克」という言葉がある。大学に限らず、ほとんどの施設が当初の都市計画の理想を実現することなく整備される。都市計画という手段を通さない方が計画を実現できることの方が多いかもしれない。副題の「近代都市計画の錬金術」という言葉は(これも私が本書に惹きつけられた要因の一つだが)、金を求めつつ多くの科学を発展させた錬金術を大学整備の経緯に照らして、周辺地域も含めた「大学町」の価値と意味を考える趣旨だと言う。

 それはある意味、現代都市計画に対する批判と見ていいのだろうか。そこまでの深い論考はされていないが、各大学の開発の歴史を見るだけでもそれなりに楽しめる1冊であった。

●大学キャンパスならば、高低差などの理由で住宅地として売りにくい土地も広場として活用することができる。そして、住宅地との相性もよく、商店街も成立する。こうして、市街地の形成と強く結びついた大学町が、東急沿線に出現したのである。(P117)

●愛知県による大学創設費の寄付、そして土地区画整理組合からの用地寄付といった地元負担によって、名古屋帝国大学の創設は実現した。そして用地寄付が可能となった背景には、戦前名古屋における土地区画整理の進展と、その特徴的な展開があったのである。その意味でまさに、土地区画整理が大学を生んだといってもよい。(P150)

●計画の一貫性と事業の実現性は、表裏の関係をなすものでもある。その相克のなかで、それぞれの都市における、それぞれの都市計画的な状況に応じて「大学町」が生み出されたのである。・・・多様な主体による都市計画的な試み、都市計画が制度となっていくことによって失われがちなものを、「大学町」は教えているように思えるのである。(P192)

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2010年12月 2日 (木)

持家政策を評価する視点と公共住宅の役割

 藻谷浩介の「デフレの正体」の中に、「公営住宅と持家対策の2段階方式で成功した戦後の住宅政策を見習った医療福祉制度の構築」という提案がある。建築・都市計画関係者からはすこぶる評判の悪い日本の住宅政策を成功例として評価している点が気になっている。

 欧米の潮流は「公共住宅の直接供給から家賃補助制度へ」だと思っていたが、先日の海老塚先生の講演の中でも、イギリスの最近の住宅政策の流れとして、低価格持家促進事業が積極的に取り組まれているという。この事業の概要が知りたくて、少し調べてみた(というか、私のあさってな調べ方に業を煮やしたか、中部大のM先生にこの論文の存在を教えていただいた。)。

 同志社大学経済学部・菅一城准教授の「住宅購入の促進と公共的住宅の再評価-イギリスにおける低所得者向け住宅供給の政治経済学」だ。

 本論文は、サッチャー政権の公営住宅売り払い政策Right to Buy(RTB)に遡って、イギリスの持家促進政策を検証し、併せて低所得者対策としての公共的住宅の再活用の状況をレビューしたもので、公共住宅のあり方を考える上でも興味深い。

 まずRTB以降、イギリスでは持家率が大きく上昇した。2002年時点で70%を越えている。イギリスの政権は、その後労働党政権が受け継ぎ、今年になって13年ぶりに保守党政権に戻った。この論文が書かれた2005年時点では労働党政権だが、RTBは「住宅市場での柔軟な活動と安定的な共同体を両立する政策」として労働党政権にも評価され受け継がれている。いや先日の海老塚先生の講演でも、労働党に政権が移った1990年以降、持家率が大きく上昇するとともに、公営住宅のHA移管が積極的に進められ、払い下げ戸数が増加しているということだった。

 低価格持家促進事業は大きく二つに分けられる。従来のRTBを代表とする公共的住宅入居者を対象とした制度とそれ以外の者を対象とした持家取得支援制度である。前者のRTBにも変遷があり、地域別割引上限額の導入や、不正防止のための購入後売却への歯止め策などが講じられている。また、HA住宅にも同様の割引購入制度がある他、公営住宅入居者に対する民間住宅購入資金補助もあるようだが、実施は地方自治体の裁量に委ねられ、実績自体は少ないようだ。

 公営住宅入居者以外に対する持家取得促進制度としては、大きく3つ紹介されている。Key Worker Living制度は教員や看護師、警察官などの都市サービスに不可欠な職業に従事する人々に限定して購入資金を5万ポンド(ロンドンの教員は10万ポンド)まで融資する制度である。しかも返済義務は、離職時、または購入住宅の転売時に発生し、かつ返済額は転売価格に比例するという。

 職業を限定しない持家促進制度としてはHomebuy制度がある。民間の既存住宅の購入時に購入金額の25%まで無利子融資するもので、財源は政府機関である住宅公社が拠出し、HAが地方自治体と協議して融資対象者等を審査決定するという。

 もう一つ紹介されているのが、先の講演でも紹介されたConventional Shared Ownership制度である。これは本来購入価格の25%~75%を支払い、その分の所有権を得て、残りは家賃を払い続けるというものである。買い残し分はその後買い増しを行い、最終的には100%所有権移転を完了する。供給主体はHAで、この実績は他の低価格持家促進事業の倍額に達し、主導的な役割を果たしている。ちなみに、共有ではなく実際に特定部分を分割所有するDo-It-Yourself Shared Ownership制度もある。

 3つの制度のうち、最初のKey Worker Livingは職種が限定されており、2番目のHomebuyは全額ではないので低所得者には敷居が高い。Conventional Shared Ownershipは資金が足りない部分は家賃で補い、かつ家賃補助の適用対象となるようだから、低所得者の需要に対応している。

 もちろんこれらの持家促進策で低所得者がすべて救われるわけではない。住宅を購入しても自己資金分の住宅ローンが返済できない、税金や水道料金などが支払えない、購入した住宅を適正に維持・管理できないといった人々が存在する。そこで登場するのが「公共的住宅の再評価・再活用」である。

 既にイギリスの公営住宅の割合は、住宅ストック全体の9%近くまで減少したが、一方で社会住宅は8%まで伸びてきた。これらの公共的住宅を「住宅所有の負担に適さない世帯」のために一定数確保していく流れが出ているという。そのために、高齢者居住にふさわしい公営住宅の売払い申請を却下したり、一旦売却した公営住宅の買い戻しといった対応が行われている。もっとも単純に公営住宅の拡充ではなく、HAが主体となったり連携した取組が進められているようだ。

 この論文の最後「7.おわりに」では、「住宅所有を中心とした社会は、他方で公共的住宅が活用されることで機能する」と言いつつ、「持家を中心とする社会において、公共的住宅を相対的に少数のまま抑制しつつ効率的に活用することで十分に対応できるかどうかは今後の課題となる。」と書き、公共的住宅がどれだけあれば適当なのか、明確な判断をしていない。

 日本では戦後以来一貫して持家政策が取られてきた。現在では批判されることが多い持家政策だが、町内会活動への参加など、自己所有となることで地域への責任感が発生し、適正な維持管理が行われるなどの長所も多い。持家政策批判の真意は、持家取得促進策自体ではなく、その結果、公共住宅政策が手薄くなったことにある。

 一方、公共住宅における現在の最大の課題・矛盾は、入居者の沈殿化である。特に公営住宅は平成8年の応能応益家賃制度の導入以降、公営住宅収入基準に適合すれば合法的に市場からすれば相当に低い家賃負担で入居できる状況にある。もちろん実態はさらに低所得の収入分位10%未満の世帯が多く、コミュニティ・バランス等の面で課題となっている状況はあるが、一方で公営住宅入居者という既得権益を謳歌している世帯がいることも確かであり、公的サービス供与の不平等という問題を引き起こしている。

 サッチャー政権による公営住宅払い下げは「小さな政府」方針の下での民営化政策という側面があるが、一方で「柔軟で流動的な持家市場」を実現させ、その結果、真に住宅に困窮する世帯をあぶり出したと評価することもできる。だからこその「公共的住宅の再評価」である。

 現在の硬直化した日本の住宅政策を揺り動かし、適正な形に作り替えていくためには、「住宅居住の流動化」が一つのテーマになるかもしれない。それも、最近さまざまに取り組まれている持家層の流動化(ミスマッチ対策としての高齢の持家居住者の移住など)ではなく、借家層の流動化という方向で考えてみたらどうだろうか。公共住宅施策を持家政策と一体的に考えることで、これまでとは違った新たな住宅政策の展開が見えてくるような気がする。

 ちなみに蛇足だが、本論文の最末尾は「購入した住宅がその後の買い替え資力の源泉となることが保障されなければ、住宅購入は起居の場を確保することにとどまり、権利を行使し義務を果たす自立した住宅所有者の創出へと展開することは困難であろう。」という文章で結ばれている。「購入した住宅がその後の買い替え資力の源泉となる」とは、「中古住宅であっても、メンテナンス等の状況に応じ、新築時と同等の評価を得る」ということを意味する。まさにその点も日本の持家住宅市場の最大の課題の一つである。

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