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2013年5月

2013年5月22日 (水)

戸建住宅団地の居住環境評価

 国土交通省(土地・建設産業局)では平成21年度に「戸建て住宅団地の居住環境評価に関するガイドライン」を策定・公表している。この内容を詳しく聞き、意見交換をする機会があったので報告する。
 ガイドラインは、住宅単体の性能表示制度はあるが住宅団地の性能表示制度はない、しかし住宅単体では測れない性能がある、という問題意識の下、1団地の居住環境を評価する仕組みを提案したものである。住宅の性能表示制度はあるのだから、住宅単体については評価対象外、住宅地開発事業のツールとして使うという意図から一体開発される住宅団地を評価対象とし、宅地開発と一体で整備された共用施設は対象とするが、そうでない施設については近接(評価対象区域内の一番遠い位置から600m以内)のもの以外は評価の対象としない。また、駅や公共・公益施設への距離など立地条件に関わる部分については、土地価格に反映されているとして評価対象外としている。逆に言うと、地価に反映されない居住環境について評価することで、住宅団地の差別化や比較を行うことができるようにすることを目的としている。
 評価結果については、CASBEEのように一つの数値指標で表現するのではなく、「安全」「生活」「街なみ」「エリアマネジメント」の4つの区分の中にさらに「防犯」「交通」「防災」/「公園」「利便施設」「バリアフリー」/「ゆとり」「緑」「景観」/「街並みルール」「管理体制」「地球にやさしい」と3つずつの評価項目があり、それぞれ「居住環境配慮している/されていない」のいずれかの評価がされる仕組みになっている。ビジュアル的には、評価できる項目がカラー表示され、評価できない項目は白塗りになっている。
 各項目は基礎的には計91の小項目について「適合している/していない」の評価を積み上げ、12の中項目ごとに基準値を設定。適合している小項目の数を基準値と比較して、中項目の評価を行う仕組みになっている。ちなみに「交通」の項目は、団地内道路の幅員や歩車分離の状況等が評価項目となっている。また、基準値はインターネットでピックアップしたカタログから判断して採点し、平均点をベースに設定している(ただしエリアマネジメントについては政策誘導的に設定)。
 パブリックコメントを経て公開されたガイドラインは現在、国土交通省のHPに掲載されているが、実際どれくらい利用されているかはっきりしたことはわからない。プレハブメーカーでは営業マンのツールとして役に立つという意見もあるようだし、国内で良質な住宅団地開発を多く手掛けている住宅生産振興財団では、団地をガイドラインに基づき分類し「30年のあゆみ」として刊行したなどの事例があるようだ。
 国の住生活基本計画では、参考資料として最低居住面積水準などと並んで、居住環境水準を記述しているが、内容は指標項目を挙げるのみで、具体的な数値が記載されていない。本ガイドラインはこれに代わる具体的な指標として活用できるかもしれない。また、地区計画などを検討する際に、建築基準法に定める規制項目と数値に囚われがちだが、このガイドラインを利用することで、具体的な地区イメージを持って地区計画を検討することができるようになる可能性もある。
 参加者からは、事業者が自ら評価するのではなく、消費者や住民が住宅購入の際に利用するツールとして使えるのではないかという意見があった。ネットで評価したい項目を入力するとお勧め団地が紹介される仕組みなどのアイデアも面白い。リクルートなどの住宅情報企業での利用も考えられるだろう。また既存住宅地の評価に使用することはどうだろうか。市町村全域で評価をすることで、課題が数値的に見えてくるかもしれない。
 参加者からは、評価項目の重み付けの可能性や基準値の妥当性、経年的な変化への対応など様々な意見が出された。それは逆に言えば、非常に興味をそそる取り組みだったということでもある。国土交通省の中でも土地・建設産業局の取り組みということで、住宅局からの視線は冷たかったという話もあるが、うまく民間活用を促すことで居住環境を評価する機運を高めていくことが必要ではないだろうか。楽しい話を聞かせてもらった。

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2013年5月21日 (火)

まちなか戸建

 先日、森本先生の講演をお聞きし、やはり読まずばなるまいとさっそく本書を手に取った。基本的には先日の講演会と同じ流れである。講演の中でも話しておられたが、「2部 まちなか戸建の性能」と「3部 まちなか戸建を支える地域ビルダー」が先日の話にはなかった部分。そして「4部 まちなか戸建とまちなか形成」についても「持続可能な住宅地」に関する考察が本書の後の研究成果として講演会で語られていた。
 内容的には、先日の記事でほとんど書いてしまった感があるが、本書で読んで改めて認識したことの一つが、本書で規定する「ミニ開発」や「まちなか戸建」とは敷地面積100m2未満の狭小敷地に立地する、多くは3階建ての戸建住宅だということ。正直、名古屋の感覚ではありえない規模で、これを良好な住宅地と評価するのはさすがに憚られるという思いがする。4部も東大阪市や八尾市など大阪近郊市を対象に実証的研究成果を報告しており、即、全国に敷衍できるわけではない。
 しかし先生が主張されているのは、地域によって許容される住宅の状況は異なるということで、だからこそ地域ビルダーの成長と可能性に期待している。逆に言えば、敷地の共同化等による再開発マンションが常に善とは限らないということで、敷地の共同化が容易でない現状からすれば、所有と利用が個人の自由に任せられる戸建住宅のメリットを生かした住宅地づくりは当然、専門家も積極的に取り組んでいく必要がある課題だということだ。
 2部では高密低層住宅地にふさわしい戸建住宅とは何かを実験的に建設し検証していく。材料や工法、設計の検討も楽しいが、「解体(分解)性能」がこれからの時代に強く求められることを強調している点が目を惹いた。単に耐久性の高い建材を使用するだけではなく、解体時のリサイクル性等を考慮することが、リフォームの容易さにつながり、環境負荷の低減につながっていく。石膏ボードの分離・リサイクルなど問題は大きいが、今後真剣に検討していくべき課題である。
 本書を通じて、具体的で実証的な研究姿勢が非常に参考になる。理想や定論に固まらず、現場を見て研究し発想することの重要さを改めて感じた。

●専門家の立場からすれば、あまりに許容度が大きすぎて、「悪化」としてしか評価できないような動向も、地域の事情によっては許容される。例えば「まちなか」における「ミニ戸建」に対する受容の度合いは、同じ容積率で開発される「高層マンション」よりも高いという傾向は一般的に観察される。高密度化=居住環境悪化としてしまい、どっちもどっちであると評価してしまうと、この地域ごとに育まれたコントロール機能の過小評価につながる。/居住地ごとに働いているこの機能を読み取り、実際に空間の更新を担当する専門家の役割は大きい。単に法律に則っているかどうかで判断するのではなく、相隣・近隣レベルでの「受容と抑制」の機能に対して十分な配慮を行い、仕事をすることが求められている。(P13)

●戦後わが国における零細戸建持家の発展過程には、いくつかの特徴が見られる。/第1は、住宅の延床面積が着実に増えてきている点である。/第2に住宅の性能(構造・防火・断熱・設備)が着実に向上してきている。/第3は、零細戸建持家が大都市における戸建住宅の容積率増大を主導してきたことである。/第4は空間更新の柔軟性である。/第5に・・・地域ビルダーの成長である。・・・以上のような点を考えると、これら零細戸建持家を「市場の失敗」や「都市計画の失敗」によるあだ花としてとらえるのではなく、都市型住宅の確立に向けた発展途上にあるものと位置づけ、その供給・更新メカニズムを十分に活用して、新しい都市型住宅地像を構築することが急務であると思われる。(P66)

●住宅分野でなにより大切なことは「解体(分解)性能」を高めることである。解体(分解)性能を高めることは、建替時におけるリサイクル性能が高まることにつながるだけではなく、住宅のリフォームを容易にすることにつながる。リフォームの容易さは結果的には住宅の長寿命化につながるのである。/このように考えると、住宅の長寿命化を主張することとあわせて、いたずらに建築物や住宅の堅固さ追求し、解体性能を等閑視することは誤りであるということになる。それは結果的には長寿命化にとってもマイナスとなるからである。(P108)

●筆者等は、このように居住が継続されていく中で違法状態になっているものの、地域的にはそのような住み方が許容されている住宅地の状態を「違法・地域許容建築物群」としてとらえている。(P212)・・・これに対して多くの地域で発生している高層マンション反対運動等では、合法であるにもかかわらず、地域的には受け入れられない状況もみられる。これを「合法・地域不適合建築物群」と呼んでいる。(P225)

●上から規制の網をかぶせたまちづくりではなく、個別の更新主体の申請を原則として、それを誘発し、上手にくみ上げていくという仕組みづくりが、まちなか戸建を核とする住宅地形成に向けての自治体の大きな役割となるであろう。(P239)

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2013年5月 2日 (木)

「良いまちなみ」から「住みよいまち」へ

 都市住宅学会中部支部総会講演会に参加した。講師は近畿大学を今春に退職した森本信明名誉教授。2008年に「まちなか戸建」を執筆発行されているが、何故かこの本は読んでいない。たぶん当時は私の関心が公営住宅や住まいのセーフティネットの問題に占められていたのだろう。だが、森本先生の著作は1998年に発行された「賃貸住宅政策と借地借家法」、1994年に発行された「都市居住と賃貸住宅」ともに読んで、非常に共感を持った。実に20年ぶりに憧れの人に会う思いである。ちなみに初めて拝見した森本氏はたいへん物腰の柔らかい上品な紳士だった。そして研究の視点もやさしさに溢れている。
 講演のタイトルは「『まちなか』と『郊外』-都市居住のいまとこれから」。前半で「まちなか戸建」で展開した小規模戸建住宅の可能性とまちなみへの影響と考察を説明し、後半で中部支部からの要請に応じて郊外居住の問題について所見を語られた。
 まず最初に、持ち家の可能性について語られた。森本氏を学会でつとに有名にした定期借家論争、西山卯三の持ち家主義批判、住宅研究者に根強く残る持ち家政策批判等を説明した後、和歌山大の山田良治先生の「土地持家コンプレックス」にあった一節「持家化の歴史的必然性と限界」を取り上げ、「資本主義社会においては持ち家化は自然な現象である」と反論する。もちろん持ち家化の進行によりアフォーダビリティ(セーフティネット)の問題が発生するかもしれないが、それはそれとして別の問題として対応すべきで、持ち家政策の結果であるとか、持ち家政策を止めれば解決するという問題ではないということだ。
 山田良治先生と言えば、2009年の都市住宅学会大会のWS「公共住宅の課題と再生」を担当した際に、パネラーの一人として参加いただいたことがある。その時は土地空間の公共性とアフォーダビリティ問題への介入にあたり、市場・経済政策によるアプローチと「建築不自由の原則」の確立の観点から話をされた。他のパネラーと噛み合わなかった感があったが、「建築不自由の原則」については、森本氏も講演の中で話題に取り上げており、両者が同席したらどんな議論が展開されるのか興味を持った。
 さて、森本先生の立場は持ち家は社会的な趨勢であるというものだが、共同建と戸建との比較では、耐震性や効率性では共同建が優れるものの、建替えや増改築の容易さ、敷地分割・処分の用意さでは戸建の方が優れることから、都心近傍から郊外にかけては戸建住宅が多く建設される状況にある。こうした状況で地価が一定程度高ければ小規模敷地上の戸建住宅の発生は必然的である。 
 こうして建設された都市型住宅としての「まちなか戸建」は、個別更新、住宅以外の用途の適度な混在など空間変化に対する柔軟性が高く、前面空地を活用した自家用車利用が可能で現代的生活にマッチしている。一方で、「まちなか戸建」は一旦建設されると建替えや増改築はそれぞれの所有者に任せられるため、まちなみに対する均質性と安定性に欠ける。従来、この課題に対して居住地共同体、今風に言えば「地域マネジメント」によるまちなみ管理を期待する研究が多かった。しかしここで森本氏がユニークなのは、「違法・地域許容建築物群」の研究を始められたことだ。
 開発後それなりに時間が経過した住宅地では普通に見られることだが、自転車の道路への突出、植栽の表出、クルマが道路に少し突き出ているケース。さらにガレージの屋根設置などは違法ではあるが、地域では許容されているケースが少なからずある。
 持続可能な都市住宅地を考えた際に、3つの視点を挙げられた。一つは世帯が次の世代に引き継がれていくこと。二つ目は空間・環境が良好な住宅を維持しつつ、必要に応じて更新されていくこと。3つ目は必要な生活サービスが提供され続けること。これらの柔軟性・混在性も含めて評価していくことが、持続可能な住宅地としては必要な視点ではないか。
 「持続性のあるまち」が「住みよいまち」だと定義すると、「建築不自由の原則」で守られる安定性・均質性の高い「良いまちなみ」に対して、「地域許容の原則」により形成される柔軟性と混在性のある「しなやかなまち」が考えられる。「良いまちなみ」から「住みよいまち」へ。これが森本氏の今回の講演のキーワードだ。
 後半はここから郊外問題に移っていく。最初に立てた論は「公共介入の必要性はどういう条件があれば組み立てられるのか」。端的に3点を挙げる。市場の失敗、共通利用、共同要求だ。この3点の念頭に置いた上で、空き地・空き家の増加、生活施設・サービスの衰退問題、地域ぐるみの高齢化問題、コミュニティの衰退問題について本当に公共の介入が必要なのかを考えてみる。
 森本氏の考えは、ある程度市場メカニズムに任せる中で多様な解決策が模索される可能性があるのではないかというものだ。そしてその場合、その市場メカニズムをいかに計画的にコントロールしていくのかが行政課題となる。
 概ね以上のことを話された後、会場との質疑応答が繰り広げられた。私からは「『公共介入の必要性』の3条件に加え、社会状況の変化の中で『公共(計画)の失敗』があったのではないか」「今後の行政政策に対するアドバイスはないか」と発言させてもらった。先生からは「住まいのセーフティネットと安全性の確保が最大の行政課題であり、福祉施策や防災施策など他分野と連携した取組が必要ではないか」という答えをいただいた。
 会場からは、地域活動にがんばっている方から「行政のリーダーシップに期待したい」といった意見もあったが、私としては「行政は『地域許容の原則』や『住みよいまち』の実現に向けて、市場メカニズムを計画的に活用・コントロールする仕組みづくりに努めるべき」ではないかと思う。もっとも「言うは易く、行うは難し」ではあるが。
 「地域許容の原則」による、「良いまちなみ」から「住みよいまち」へ。心にストンと落ちる話であった。まさにそういうまちができたらいいなあ。建築行政って何だろう。そのことを思わざるを得ない。

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