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2013年10月

2013年10月 8日 (火)

居場所としての住まい

 筆者の小林秀樹と言えば、つくば方式定期借地権住宅で有名だが、「ナワバリ学」と言われると、「何それ?」と思ってしまう。しかし、「あとがき」によれば、そもそも大学院生時代の研究テーマは家族のナワバリの研究だったそうだ。現在の千葉大に赴任後、再び研究を再開したという。
 「ナワバリ学」と言っても動物の生態学ではない。もちろん小林氏のこと、住宅や施設の利用者による領域研究といった意味だが、住宅の場合は家族の状況と切り離せない。まず、集団による領域決定のタイプとして、「順位制」と「ナワバリ制」があることを紹介。その上で、順位制・衡平制・領域制・共有制の4つの行動様式に、相互依存的か独立的か/水平的関係か垂直的関係かの二つの人間関係軸を組み合わせ、8つの集団タイプを説明する。
 封建集団・二律集団・能率集団・自立集団・棲分け集団・協同集団・友愛集団・温情集団の8つだ。このうち、日本の家族は、封建家族、温情家族、友愛家族の三つが混ざり合っていると説明する。家父長制を典型とする「封建家族」は依然残るものの、母親が主導する「温情家族」が多くなり、子どもの成長とともに母親と子どもの関係を中心とした「友愛家族」に変化していく。確かにわが家を振り返ってもそのとおりだと思う。
 これに対して、アメリカ中流家庭では、水平的集団主義を希求する「協同家族」をめざしつつも、子どもに対する親の権威が強く、かつ自立を促す「二律家族」であることが多いという。
 では、なぜ日本の家族は「温情家族」になったのか。それは屋内で靴を脱ぐ「床上文化」がその要因だと指摘する。なるほど。
 第4章以降は、上野千鶴子や山本理顕らのLDK論争などを紹介しながら筆者が考える理想の間取りを語る「理想の間取りとは」、三世代同居住宅の造り方を語る「三世代同居の深層心理」、シェアハウス等のシェア居住の住まい方を研究する「ルームシェアのナワバリ学」と続く。そして最後の第7章は小林氏が解説する「日本の住まいの近代史」。この章の中心は、中廊下型は座敷直入型から変化したという青木正夫説。そしてDK普及に果たした公団の意図と結果の顛末も面白い。
 「おわりに」で書くように、「住まいとは、本来、保守的なものであり、床上文化に代表される持続する住文化の力が強く働いている。と同時に、様々な社会状況を受けて変容する力の影響を受ける」。それゆえ、「革新的な提案が失敗したり、逆に、予想外の変化がみられたり」(P201)する。だからこそ面白いのかもしれない。単身者の増加やシェア居住など日本の住宅はまだまだ変化していくだろう。筆者の言う「ナワバリ学」はまだまだ活躍する場面がありそうだ。

●個室のあるナワバリ制に求められる行動様式とは、自分の意思をしっかりと表明するとともに、相手と意見交換して合意することを重視するものだ。というのは、ナワバリ制は、互いの接触を避ける仕組みであり、意図的に言葉を交わさなければ相手と意思疎通することができないからだ。このため、順位制に求められる空気を読むという態度だけでは、家庭生活を円滑に営むことができない。(P6)

●日本では、床上文化を背景として、母親による添い寝の習慣が根強い。このことは、母と子の一体感を育み、家族は温情集団としての性格を強めるだろう。親の養育態度は、時代とともに変化するし、社会階層や住環境でも変わる。しかし、日本では半世紀もの間、ほとんど変わっていないとすれば、その背景には、時代変化を受けなかった強固な理由が存在しなければならない。その理由が、床上文化にあるというのが、私の一貫した認識である。(P63)

●nLDK住宅が示すのは、眼の前にある家族の実態ではなく、家族はこうありたいという人々の願いではないだろうか。私たちは、夫婦仲良く寝室を共にしたいし、子どもを平均二人はもちたいと願う。・・・そのような願いが、3LDKの住まいとして定型化されるのである。住宅市場では、子どもがいない夫婦や、子どもが一人の世帯でも、資金に余裕があれば3LDKを購入しようとするそうだ。そのほうが中古になっても売りやすいし、また将来、家族が増えても対応できるからだ。このように、ある種の規範を背景として、住まいは3LDKの定型に収斂していく。その結果、個人の生活の実態とは必ずしも一致しないのである。(P84)

●公団の目的の・・・もう一つは、政府の資金不足を補うために、民間資金によって住宅づくりを進めることであった。このため、家賃は高かった。そこで、高い家賃にみあう付加価値として公団が注目したのが、ダイニングキッチンだ。・・・当時、ステンレス流し台は高価な輸入品であった。・・・そこで、公団は大量発注できる強みを生かして国産化を呼びかけ、それに応えたのが、当時は小さな町工場にすぎなかった菱和(後のサンウェーブ)だ。試行錯誤のすえ、ついに価格を約1/4に引き下げることに成功し、これ以降、一般の戸建て住宅でも、ステンレス流し台が普及していくことになる。(P184)

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2013年10月 1日 (火)

自治体のエネルギー戦略

 東京都庁の大野氏の著作ということで気になっていた。前に岩波新書から発行された「都市開発を考える」は今でも自宅の本棚に置かれている好著の一つだ。あれから20年余。大野氏は東京都庁で約15年前にそれまでの都市行政から環境行政部署へと異動され、東京都の環境行政をリードしてきた。本書は大野氏の環境行政における成果をアメリカ各都市の動向と合わせて報告したものである。大野氏も既に60歳。7月には東京都環境局長を退任し、自然エネルギー財団事務局長に転進した。「あとがき」にあるとおり、まさに「卒業レポート」と言える。
 一方、「都市開発を考える」は「キャリアーを本格的に始める直前に書いた、『選手宣誓』ともいうべき書」(P231)と自ら書いている。埃を被った「都市開発を考える」を取り出し、パラパラと読み直してみた。確かに、TDRやPPPなど当時のアメリカの最新の都市開発手法を紹介しつつ、これらを批評的に取り上げ、日本の都市づくりについて、「公正で開かれた開発プロセス」「住民参加」「自治体の都市づくりの権利」を提言している。まさにバブル終了期における都市開発の書として先駆的な内容だ。かつ読みやすい。続いて刊行された「現代アメリカ都市計画」に対する感想もべた褒めの様相だ。
 さて本書である。第一部でアメリカの各都市と州の取組みを紹介する。ニューヨーク市の環境都市プラン「プランYC」の策定とグリーンビルディング施策、北東部諸州による地域キャップ&トレード「RGGI」、カリフォルニア州のキャップ&トレード制度導入に伴う住民投票の状況などだ。これらを読むと、環境政策は都市政策として取り組まれていることがよくわかる。大気汚染対策との同時達成を目指す「コベネフィットアプローチ」なども参考になる。
 そして第二部では東京都での取組みが紹介される。1960年代からの公害行政、2000年からの地球温暖化対策計画書の導入から続く取組みの上に立って、2008年の東京型キャップ&トレード制度の導入に続く取組みとその内容を説明した後、第2章「『政策の壁』を崩した四つの力」に続く。4つの力とは、「その1 誤謬を正す政策論争の徹底」「その2 地域に適した実効性のある仕組みの構築」「その3 知と信頼のネットワークの形成」「その4 スタッフ集団の力の蓄積」である。その内容についてはある意味当たり前のことを言っているに過ぎないが、実行し実現してきたことには大いに敬意を表したい。
 個人的には、気候変動の猛威については頷く部分もあるが、地球温暖化については懐疑的な気持ちもある(先日、IPCCの第5次評価報告書の第一次作業部会報告がニュースになり、さらなる地球温暖化の進行を訴えていたが、本当かしら)。こうした中で、低炭素化対策はいかに合意を得て進めてきたのかという点に最大の興味があった。
 都市的環境改善との「コベネフィットアプローチ」などはよくわかるが、東京都の場合は「持続的な発展に資する」(P156)という点が挙げられている。このことをどう明確に説明するか、本書では書かれていないのでよくわからないが、東京都には「大規模な工場が少なく、対象となる約1400事業所の八割以上は、オフィスや商業・文化教育施設などの業務部門」という状況も後押ししたのだろう。東京都には火力発電所は大井と品川の2ヶ所しかない。
 そういう意味では各地域のエネルギー施策は地域ごとの状況を踏まえて進めていかなければならない。どこでも地域版キャッチ&トレード制度や太陽光発電設備の設置を進めればいいというわけではないし、全国的ではなく地域で進めるのであれば、その理由と効果が強く求められる。また、東日本大震災と福島原発事故の発生により、地球環境問題に対する国民や企業の意識も大きく様変わりしたように感じる。これからの地域版環境対策は東京都の真似をすればいいというわけではない。
 政策の進め方という点では大いに参考と自己啓発になるが、次に続く者はまた違うやり方、違う認識で進める必要があるのだろう。大野氏の熱意と能力には敬服するしかない。

●気候変動という世界的な課題への挑戦は各都市や州では、それぞれの地域の課題の解決策と一体のものとして取り組まれてきている。グローバルな課題への取組みはローカルの問題解決と同時に追求されてこそ、大きな成果を上げることができる。・・・3.11後の日本で、わが国の地方自治体が直面する電力エネルギー問題と気候変動問題に一体的に取り組むのは、その意味でごく自然のことだといえる。(P25)

●多忙な専門家がなぜ時間を割いて市の政策づくりに参加するのか。・・・スコット・フランク氏は・・・こう語る。「まず、実際に建築物の開発を担当しているメンバーが参加することで、市の施策を、緩めるということではなく、より合理的で意味のあるものにすることができると考えていること。次に、参加することにより市の施策がどこに向かおうとしているのか、市の行政はどのように機能しているかがわかること。そして第三には、環境のための活動に参加することで、前向きな企業として企業イメージを高めることができることだ」(P51)

●気候変動対策と大気汚染対策を同時に追求することは、「コベネフィットアプローチ」と呼ばれ、途上国における施策展開で重視されているが、カリフォルニアのマイノリティコミュニティでもAB32は、両方の意味で重要な施策と認識され、多くのグループが提案23号反対の運動に立ち上がったのである。(P106)

●必要な場合には、国に先んじて革新的な環境施策を導入するという姿勢は、いわば東京の環境行政のDNAとして今日に継承されている。条例制定権の最大限の活用、議論の公開による世論形成という取組み方も引き継がれてきた。また、具体的な施策形成のノウハウという点でも、過去の取組みは次の世代の仕事に活かされている。(P128)

●エネルギー施策は、経済や社会の根幹に影響を与えるものであるが故に、その転換には多くの既得権益は関わってくる。・・・東京でもニューヨークでもカリフォルニアでも、革新的なエネルギー政策の導入は、激烈な議論のうえに初めて可能となったものだ。(P230)

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